古田会計事務所

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今週の考える言葉「黄金ルール」

考える言葉

黄金ルール

   “黄金ルール”(The Golden Rule)とは、金科玉条つまり、もっとも大切で守らなければならない重要な規則のことをいう。
 
   若いころ、流行ってよく使った言葉の一つである。その時は知らなかったが、“黄金ルール”とは、キリスト教で説かれている「あなた達は自分にしてもらいたいと思うとおり、人にしなさい」という教えだったという。
 
   およそ500の会社設立に関与したといわれる渋沢栄一は、『渋沢栄一 人生を創る言葉50』(渋澤健 著)の中で、起業における“黄金ルール”として、次の4つの条件を挙げているという紹介があった。
 
① 第一に、どのような壮大なビジョンを描いているとしても、その事業のソロバン勘定が合うかどうかを見極める。
 
② 第二に、社会が必要としている付加価値を提供している事業であるかどうかを見極める。
 
③ 第三に、いかに素晴らしいビジネスモデルの事業であっても、その会社を起こすタイミングが合っているかどうかを見極める。
 
④ 第四に、最も重要なことは、その事業を立ち上げる際に相応しい経営者であるかどうかを見極める。
 
   以上4点であるが、さすがに「近代資本主義の父」、実に的を射た条件である。
 
   P・F・ドラッカーは「会社の目的は顧客の創造にある」と述べているが、氏のマネジメント論は渋沢栄一が教える人生とビジネスの成功法則と読めば読むほど合致するところが多い。
 
①のソロバン勘定とは、「自社の望む価格で販売する」ことであるし、値決めはまさに経営である。
 
②の社会が必要としている付加価値の提供とは、「マーケティング&イノベーション」という基本的な機能である。
 
③の起業のタイミングについても、成果の出ない商品や事業の体系的な廃棄を提案している。「事業のライフサイクル(導入期~成長期~成熟期~衰退期)」を見極めることことが大切だ。
 
④のついては、言わずもがなであるが、相応しい経営者になってもらうためのマネジメント論である。
 
   ドラッカーを学んでいたので、渋沢栄一の言葉をよく理解できたし、逆も然りである。渋沢栄一の言葉をかみしめながら、ドラッカーを学び直してみたいと思った。
 

今週の考える言葉「共創」

考える言葉

共創

   5年ほど前に購入した本、『渋沢栄一人生を創る言葉50』(渋澤健 著)をバリ旅行中に再読した。「明治150年」(2019年)を迎えるにあたって、執筆された本らしい。
 
   渋沢栄一(1840~1931年)と言えば、一昨年の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公であり、「日本の資本主義の父」といわれた人で、明治・大正時代に活躍した数多くの実業家の中でも、群を抜いた人であった。
 
   栄一は、百姓の生まれだったが、周囲の影響から尊王攘夷の思想に目覚め、倒幕活動に走った。ところが、あるご縁で一橋慶喜に仕えることになり、彼の人生は一変する…。幕府の使節団員として欧州に行き、様々な刺激を受けて、近代化の種を持ち帰って先覚者として活躍する。
 
   日本初の銀行である第一国立銀行をはじめ、約500社の設立に関与した実業家となる。また、およそ600の大学、病院、社会福祉施設など非営利の組織や活動の設立に関与した社会起業家でもあった。
 
   栄一の著書である『論語と算盤』でも分かるように、彼の経済思想は先見性に富んだ考えであり、道徳経済合一説を説いて、彼にとって事業の繁栄は目的ではなく手段であった。事業が繫栄すれば、人々は富み、国力も高まる。この国家論こそが、栄一の行動指針であった。
 
   人間は社会の中で生きる存在である。だから、「人は社会の恩恵を忘れてはならぬ」という思想こそが、人間の想像力を逞しくし、これは自分が経験していない時空に飛躍できる力を生み出す。
 
   利己は自分の体験しか眼中にない。一方、利他には飛躍の力が必要だ。自分自身ではない他人の考え、気持ち、立場を想像して、自ら行動することが利他だからである。
 
   渋沢は、「想像力をもたらした利他の精神があったから、人間は文明社会を他と“共創”できたのだ」という。「共に創る」こと。渋沢栄一の思想の核心に、この“共創”という精神があったのだという。
 
   小生も、創業以来大事にしている言葉の一つに“共創”がある。そして、それはお互いの言動に責任を持つことでもある。
 
   上記の渋澤の本を再読して、自他非分離という統合の思想・価値観をIG会計グループの原理原則とし、“共創”の精神を広く培っていける環境を大事にしていきたいと改めて確信した次第である。
 
   “共創”の精神をベースに語る渋沢栄一の言葉は、大変、有意義である。
 

今週の考える言葉「戦略の効用」

考える言葉

戦略の効用

   21世紀に入ってすでに20数年がたつ…。21世紀はパラダイムシフトとの時代であるといわれている。
 
   つまり、過去の延長線上に未来は描けない時代だといわれるようになり、同時にマネジメントの世界において盛んに“戦略”という言葉が多用されるようになった。“戦略”に関しては今まで、”考える言葉”シリーズでも何度なく取り組んだテーマでもある。
 
   これも書棚を整理していたときに見つけた本であるが、『なぜ「戦略」で差がつくのか~戦略思考でマーケティングは強くなる』(音部大輔 著)の中に、“戦略の効用”について網羅的にまとめてあったので、ここで紹介したい。
 
   氏は、“戦略”について次のように定義し、その効用として11項目掲げている。
 
   “戦略”とは「思考のツールであり、目的達成のために資源をどう利用するかの指針」であると、定義づけている。
 
   そして、“戦略の効用”、つまり“戦略”を持つことで何が変わるかと問い、次の11項目を掲げている。
 
 ① 成功確率が上がる
 ② 目的のよりよい達成が可能となる
 ③ いい失敗で経験値を獲得しやすくなる
 ④ 再現性の確保
 ⑤ 有意識の力
 ⑥ パニックを防ぐ(混乱状態)
 ⑦ 自損事故を防ぐ(own goal)
 ⑧ 意思決定を助ける(取捨選択)
 ⑨ 目的を共有する
 ⑩ 摩擦を下げる(エネルギーの浪費)
 ⑪ 権限移譲を助ける(主体性、自制心を養う)
 
   著者は、“戦略”の構成要素は「目的」と「資源」であると概念化し、戦略とは「思考の道具」であると定義している。
 
   そして、戦略が必要な理由は、① まず一つに、達成すべき目的があること、② 二つ目に「資源」に限りがあるからだ、と述べている。
 
   小生は、戦略と戦術はいずれも、組織の未来を創造するときに必要欠くべからざる思考の道具だと心得ている。その意味でも、頭の整理ができる良書の一冊だと考え、
 
   今後も折に触れて、手にしたいと思う。
 

今週の考える言葉「先延ばし」

考える言葉

先延ばし

   コロナ禍で、私たち人間が持っている“ある好ましくない傾向”に拍車がかかっているという。その傾向とは、“先延ばし”だ。
 
   確かに、「コロナだから、仕方ないよね…」という一言を口にしたり、耳にしたりする機会が増えている。気にしつつも、諦め半分で納得している自分がいる。
 
   さて、“先延ばし”とは「やるべきことを先送りすることによって長期的には悪い結果になることが見込まれるという事実にもかかわらず、目的とする行動を自発的に遅らせること」をいう。
 
   ここで注意すべきことは、「コロナだから…」には関係なく、人間誰もが多かれ少なかれ“先延ばし”する癖を持っているという事実への自覚である。そして、その自覚の差が経営上の成否を決める大きな要因になっている、といっても過言ではない。
 
   そこで考えてもらいたい…。「“先延ばし”によって優先していることは何だろうか?」ということである。やるべきことをせず、その間に何もしないでいる人はいないだろう。必ず何かをしているはずである。
 
   例えば、スマホゲームをやっていたとか、ネットのニュースを見ていたとか、メールチェックをしていたとか。恐らく、その他雑務を優先して時間が経ってしまった結果、やるべきことを“先延ばし”してしまったのだろう。
 
   自分の経験からもそうだが、“先延ばし”の結果残るのは後悔の念だけである。「あの時、ちゃんとしておけば良かった…」と。なぜかというと、“先延ばし”には、正当な理由などないからだ。その時々の感情に流されているだけである。
 
   学生の頃だったが、部活で集まってきた連中がやるべき作業をせずに、ダラダラと談笑していると、「おい、どうせやるべきことなのだから、さっさと済ませてしまおうぜ!」と、檄を飛ばす先輩がいた。この先輩は何事も、「やるべきことは、さっさと済ませる」という信念があったようだ。
 
   確かに、“先延ばし”して残るのは後悔だけだ。そして、そういう人に限って「時間がない」と嘆いている。
 
   行動すると決めたら、心機一転仕切り直しをしよう。次の手順を踏んで、今度こそ確実に行動しようと
 
 ① 目的と目標を確認する
 ② 全体のプロセスを見渡して、やるべき手順を決める
 ③ さっさと出来ることからやってしまう
 
   そうすれば、“先延ばし”は終了。必ず、行動のサイクルが回り始めるようになる。
 

今週の考える言葉「正しい選択」

考える言葉

正しい選択

   人生は「選択」の連続である。
 
   そして、「選択」とは「多くのものの中から、よいもの、目的に適うものなどを選ぶこと」である。つまり、人生には多くの選択肢があり、その人の「選択」によって様々な可能性があるということである。かつて江戸時代の日本では、「士農工商」という身分制度があり、生まれたときからほとんどの人が将来の職業が決まっていた。現代の日本では、誰もがたくさんの職業になれるチャンスを持っているということだが…。
 
   選択肢が多いということは、 幸せになる可能性も多くなるということである。但し、ここで問題となるのは“正しい選択”がちゃんとできているのかという判断基準の問題が出てくる。
 
   その判断基準は「人それぞれ」である。「好き嫌い」で選ぶ人もいれば、「損得」で選ぶ人もいる。人それぞれの考えや、こだわり、哲学があるので、良い悪いは一概に言えないところがある。
 
   「動機善なりや、私心なかりしか」、 稲森和夫氏が第二電電創立当時に何度も自問自答した言葉として有名である。“正しい選択”が出来ているのかどうか、その判断基準として問うたのであろう。氏の素晴らしい価値観が見てとれる…。
 
   以前にも紹介したことがある『NO LIMITS』(ジョン・C・マクスウェル)では、“正しい選択”をするには、次の8つが必要だと述べている。
 
 ① 責任観・・・「すべてを潔く引き受ける」覚悟
 ② 人間性・・・この「支柱」にある人の価値観
 ③ 信頼感・・・「人生の豊かさ」を信じられるか
 ④ 自制心・・・やるべきことを「やり抜く」力
 ⑤ 心構え・・・逆境であっても「前を向く」力
 ⑥ リスクを取る・・・「安全圏」から踏み出す
 ⑦ 成長への意志・・・どこまで遠くに行けるか
 ⑧ 協働する力・・・さらに「地平線を広げる」ために
 
   「生きている限り、あなたには目指すべき場所があり、成長するための道がある」という。
 
   “正しい選択”ができる人間になるためにも、素晴らしい人や良書などの出逢いを大事にして、自己研鑽をやり続けたいと思う。
 
   “正しい選択”をすることこそ、未来を拓く道である。
 

今週の考える言葉「探求心」

考える言葉

探究心

   先週(6月24日)、「日本経営会計専門家研究学会」(2023年度第1回全国大会)が成蹊大学(ハイブリッド)で開催された。
 
   本学会の目的は、実務家と研究者(学者)がコラボレーションする場をつくることによって管理会計(=意思決定会計、未来会計)の知識を進化させ、社会の発展に寄与するところにある。
 
   さて、今大会の特別対談企画として『MAS監査の原点と未来』というテーマがあり、小生と高山範雄氏(MAP経営)に声がかかり、澤邉紀生教授(京大)のコーディネーターのもと、対談が行われた。
 
   対談の内容は、①二人の出会い、なれそめから始まり、②MAS監査がどのようにして生まれ、どう事業化していったのか、③そのプロセスでMAS監査はどのように発展していったのか、そして④MAS監査の将来・未来はどう進展していくのか等々についてだったが、対談1時間と質疑応答45分という時間配分であった。
 
   そのあとの懇親会も含めて、感じたことがある。それは、“探究心”の強さである。
 
   さすがに、学者は職業柄、“探究心”が旺盛だ。質問はもちろん、感想もつかみどころがよく、こちらの方も勉強になる。
 
   また、常に新しいことにチャレンジしようとしている実務家も“探究心”旺盛な人が多い。いや、実務家の場合、“探究心”というよりも“探求心”と表現したほうがいいかも知れない。
 
   “探究心”とは、物事に興味を持って深く知ろうとする気持ちで、物事の本質を見極めるためにとことん調べ上げ、自分が納得できるまで粘り強く取り組み続ける意思のことである。一方、“探求心”のほうは、興味のあるものを追いかけ続けるという意味合いがあるという。
 
   今回の対談の中でも話したことであるが、IG会計グループがMAS監査(=未来会計)の事業化に成功した秘訣は「しぶとく、しつこく結果が出るまでやり続けたことだ」と思う。
 
   これは、“探求心”と言い換えてもいいだろう。探求心を持って仕事にチャレンジし、やり続けていくと、“探究心”が芽生えてくる。そうしたら、最初のうちは先達者の真似事であったのが、いつのまにか自分なりの創意工夫が生まれ、オリジナル性が生まれてくるものだ。
 
   “探求心”を持って素直に学び、探究心に目覚めて真摯に取り組む。これが成功の秘訣だと言えよう。
 

今週の考える言葉「成功と失敗」

考える言葉

成功と失敗

   もう何年か前に購入していた本に『人類の未来』(NHK出版新書513)という本がある。恐らく、出張中に飛行機の中で読もうと買った本だろう。完読しないまま、放置していたようだ。
 
   パラパラとめくっていると、次の言葉が目を引いた。
 
   「“失敗”とは、延期された“成功”のことだ」(レイ・カーツワイル)。
 
   “成功と失敗”の関係性や捉え方の関しては、歴史上でも多くの有名人が名言を残している。“成功と失敗”は、それだけ、人生において誰もが体験し、考えさせられる課題だといえよう。
 
   “成功と失敗”と言えば、すぐに頭に浮かんだ人物がいる。それは、発明王と呼ばれたトーマス・エジソン(1847~1931年)だ。
 
   電球をはじめ1,300もの発明を行ったと言われ、金融王JP・モルガンの援助を受けて、現GEの元となる「エジソン・ゼネラル・エレクトリック」を設立した実業家でもある。
 
   エジソンは生前、数えきれないくらい“失敗”の連続だったそうだが、その“失敗”にめげず、挑戦を繰り返したことで、“成功”を導くことができたという。
 
   そのエジソンの言葉をいくつか紹介しておこう。
 
「私たちの最大の弱点は、諦めることにある。“成功”するのに最も確実な方法は、常にもう1回だけ試してみることだ」。
「“成功”というものは、その結果で測るものではなく、それに費やした努力の統計で測るべきものである」
「“失敗”すればするほど、“我々”は成功に近づいている」。
「人生における“失敗者”の多くは、諦めた時にどれだけ“成功”に近づいていたかに、気づかなかった人たちである」。
「“成功”する人は思い通りにいかないことが起こるのは当たり前だと分かって挑戦している」。
「失敗なんかしちゃいない。うまくいかない方法を700通り見つけただけだ」
「困るということは、次の新しい世界を発見する扉である」
「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」
 
   何かにチャレンジしようとしたとき、どれも肝に銘じておきたい言葉ばかりである。
 
   小生も「未来会計の事業化セミナー」で締めくくりとしていう言葉がある。
 
   それは、「事業化に“成功”する秘訣は、成果が出るまで徹底してやり続けることである」ということだ。「途中で諦めるから、“失敗”するのである」と…。
 

今週の考える言葉「意志」

考える言葉

意志

   先週(8~9日)、「IG事務所見学会」(実務経営サービス&MAP経営共催)が弊社で開催された。20数名ほどの参加者であったが、大変熱心な方々が集い、多くの質問も飛び交い、楽しい二日間であった。
 
   参加者の思いは一つ、弊社が事業展開している「未来会計(MAS監査)」のノウハウを学び、できれば事業化したいという思いであろう。
 
   そこで必ず出る質問が、「事業化、その成功の秘訣は何か?」である。小生の答えはいつも決まっていて、「それは、トップの覚悟」だと応える。そして、「その覚悟をどれだけ組織に浸透させることができるかどうか」…。
 
   ここでいう覚悟とは、「成果が出るまで諦めず、やり続ける“意志”」だと言える。
 
   最近読んだ本に、『価値循環が日本を動かす』(デトロイトトーマツグループ著)の中に、フランスの哲学者アランの言葉であるが、「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は“意志”によるものである」(『幸福論』)という一節を紹介している。
 
   幸福とは、“意志”と行動によって自らつかみ取るものであると、アランは喝破したのである。幸福に限らない、経営においても同じだ。何か新しいことにチャレンジし、それを事業として成功させるには、“意志”の力が必要となる。
 
   われわれ会計業界に限らず、長期停滞に苦しむ日本経済のすべてに言えることだ。
 
   「失われた30年」という言葉に惑わされて、悲観的な気分に浸っていても状況は何も変わらないと思う。
 
   日本の未来を悲観視する大きな要因の一つは、世界に先駆けて起こっている少子高齢化に伴う「人口減少」の問題がある。だが日本に限らず、将来、世界の多くの国が人口減少に向かうと予測されている。
 
   これも視点を変えると、未来の世界を先取りしているといえよう。
 
   今までと違う新たな成長モデルを構築することができれば、新しい時代環境を切り拓いていく先駆的な役割を担うことになり、日本は羅針盤として世界に指針を示すリーダーとしての存在になるだろう。
 
   そのためには、今までの「使い捨て経済(製造~消費~廃棄)」から脱却することだ。著者は、人口に頼らない経済成長の考え方として、「価値循環」を提唱している。
 
   そして、「失われた30年」というのは、われわれ日本人が「価値循環」という新しい価値観に目覚め、生まれ変わるチャンスを授かったと思うべきだと思う。
 
   そのチャンスを生かすかどうかは、我々一人ひとりの“意志”の力だと思う。そして、“意志”の背景にあるその人の価値観(物の考え方)を理解する必要があるだろう。
 

今週の考える言葉「ROE」

考える言葉

ROE

   先週の考える言葉シリーズ(23‐19)で、「BS経営は自己資本の充実」こそ、課題であると述べたが、幾人かの人から「自己資本の充実」について、もう少し解説が欲しいという意見があった。
 
   そこで、今回はその事について、二つの視点から考えてみたい。
 
   一つは、“ROE”である。「Return On Equity」の略で、日本語では「自己資本利益率」と呼ばれている。次の計算式で算出される。
 
   「ROE(自己資本利益率)(%)=当期純利益÷自己資本×100」
 
   自己資本に対し効率よく利益を上げられているか、言い換えると効率のよい経営か否かが判断できる。また、株主にとっては配当金のもとになるので非常に重要な指標でもある。
 
   そのため、自己資本利益率の高い企業ほど、優良な投資先と判断される傾向がある。その平均は6~8%程度、10%を超えると優良企業だとみなされる。
 
   もう一つは、“ECR”。「Equity Capital Ratio」の略で、日本語では「自己資本比率」と呼ばれている。次の計算式で算出される。
 
   「ECR(自己資本比率)(%)=自己資本÷総資産×100」
 
   会社の財務面の安全性を表す経営指標の一つである。「会社の資産のうちに、返済しなくていい資本がどれだけをあるか」を示している。一般に「30%以上が望ましく、
50%を超えると優良だ」と言われている。逆に10%を下回ると危険である。0%やマイナスは債務超過の状態を意味する。
 
   以上、「自己資本の充実」という経営課題に関して、「自己資本利益率」と「自己資本比率」の二つの指標を用いて解説を加えたが、この二つの指標はトレードオフの関係にあることを留意しておこう。つまり、同じ利益でも「自己資本比率」が高ければ「自己資本利益率」は下がり、「自己資本比率」が低ければ「自己資本利益率」は上がることになるということだ。
 
   少し説明が専門的になり面倒になったが、要は、企業の資金調達には自己資本(利益や増資)による方法と、他人資本(借入金などの負債)による方法がある。
 
   戦後の高度成長期には、他人資本による資金調達がメインだった。企業の成長のスピードに自己資本だけでは追いつかなかったのだろう。
 
   安定期に入った今、企業が安定した経営をするために必要な資金として、返済する必要がない自己資本による資金の調達が課題となっているのだろう。
 
   状況に応じて、判断する必要がある。経営には、何事もバランスが必要だと思う。
 

今週の考える言葉「BS経営」

考える言葉

BS経営

   “BS経営”という言葉をご存じだろうか。いうまでもなく、決算書には次の三表(財務三表という)がある。
 
① 「P/L(損益計算書)」
② 「B/S(貸借対照表)」
③ 「C/F(キャッシュフロー計算書)」
 
   多くの経営者には、「P/Lなら分かるが、B/Sはちょっと苦手」という人が多い。
 
   経営者にとって、自分の会社が儲かっているのか損しているのかは最も関心が高いことなので、その計算をしている「P/L」に関心を示すのは分からないことでもない。だが、中長期的な視点から経営を考えようとするならば、「B/S」をしっかり理解し、活用する必要があるだろう。
 
   “BS経営”とは、「B/S」をしっかりと理解し、経営に活かそうという提案である。「B/S」とは、会社の財政状態を示した表であるが、資金をどのように調達し、運用しているか、その結果、どれくらい利益を稼ぎ出して、「自己資本の充実」につながったかを明らかにしてくれる。
 
   そして、“BS経営”の目的は、自己資本をいかに充実させるか目指すことであり、そのための何をなすべきかを徹底して考え、実行することである。戦後の日本経済において、企業の発展の決め手は「売上と利益の規模の拡大」だと考えられていた。しかし今や、この考え方だけでは企業の舵取りは難しい。バブル崩壊後の「失われた30年」という現実を見れば、一目瞭然である。
 
   IG会計グループでは、毎月二回、「将軍の日(中期五ヵ年計画策定セミナー)」を開催しているが、参加されている経営者の殆どが、損益を中心とした計画を策定しているケースが多い。結果として分析予測型の目標設定になってしまっている。
 
   そこで、視点を、あるべき理想の「B/S」を思い描くことから始めたらどうだろう。
 
   納税後の純利益志向で自己資本の充実を目指す考え方である。
 
   自己資本の充実を目標に掲げると、年々の純利益の積み上げが必要となるので、自ずと中長期的な視点(5~10年、あるいは20年)が生まれてくる。変化の激しい時代環境だからこそ、「長い目で、多面的に、根本的に」物事を観て、意思決定する必要が、経営者に求められている。
 
   自己資本の充実をテーマとする“BS経営”はまさに、長期ビジョンに立った計画の策定であり、小さくても健全な企業体質を目指す経営だといえる。変化対応力は、売上の規模ではなく、自己資本の充実によって保障されるのである。