古田会計事務所

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今週の考える言葉「生命力」

考える言葉

生命力

   中村天風(1876~1968年)といえば、「人生は心一つの置きどころ」という名言を思い出させる。
 
   幸福になるのも、不幸になるのも、すべては「心が決めている」と……。
 
   この言葉と出逢ったのは、もう数十年以上も前になるが、あの当時の何か意味不明なモヤモヤ感や苛立ちが心からスーッと消えて、やるしかないと腑に落ちたのが、今でも鮮明に覚えている。
 
   それ以来、この言葉を座右の銘として、心の整理整頓を心掛けてきて、今があると思っている。
 
   今回もそうだが、書棚の整理をしていると、スーッと目に止まり、手にしたのが『中村天風 銀の言葉』(岬龍一郎 著)である。
 
   “生命力”とは、生きる力、生き抜く力である。万物の霊長として天から授かった人間の“生命力”には、他の生物にはない心(魂)が備わっている。その“生命力”をいかにして甦らせて、「人間が人間として生きていくのに一番大事なのは何か」を説いたのが天風哲学の「心身統一法」であるが、人間の本質である心(魂)を鍛えることを本旨としている。
 
   天風哲学の教義である「心身統一法」は、「生命の力」を甦らせる方法を説いているのであるが、理解しやすいように“生命力”を次の6種類に分けている。
 
① 体力・・・本当に頼もしい状態にあるか。
② 胆力・・・人間としての普通の心の強さであり、無用な心配をしない。
③ 判断力・・・物事を正しく認識し、評価する能力である。
④ 断行力・・・困難や反対を押し切って強い態度で実行する。
⑤ 精力・・・仕事を成し遂げていく元気。
⑥ 能力・・・物事を成し遂げることのできる力。
 
   以上、「6つの生命力」を甦らせる最大・最高の源泉が「積極的精神」であるという。
 
   そして、この「積極的精神」を持ち続ける心得としては、まず消極的で、否定的観念を捨て去ること。「消極的なのは本来の性格ではなく、積極的精神は努力で養うことができる」という。
 
   それから、取り越し苦労は、「ムダな努力」であり、積極的精神の大敵だという。また、取り返しのつかないことで心を悩ませるのもよくない。未練は断ち切るしかない。
 
   要は、人生は良くも悪くも自身の心の持ちようで決まるというのだ。「精神一到何事かならざらん」(朱子)である。
 
   天から授かった“生命力”。人生、まさに「心一つの置きどころ」である。
 

今週の考える言葉「超一流」

考える言葉

超一流

   市場が成熟化すると、生き残るための新たな差別化戦略が求められる。そして、その戦略が描けるかどうかで栄枯盛衰の運命が決まる。
 
   マーケティング論には、「プロダクトライフサイクル」という用語がある。それは、製品や市場の成長を「導入期~成長期~成熟期~衰退期」の4つに分類する考え方がある。
 
   この考え方を用いることで、現在自社の製品・サービスがどのプロセスにいるかを客観的に捉えることができ、次の打ち手や戦略を立てることに役立つのである。
 
   今の日本市場では、次の二つの理由から、「プロダクトライフサイクル」の短縮化が進んでいるという。
 
技術の発展速度の向上
顧客や市場のニーズの多様化・複雑化
 
   さて、“超一流”といわれる人や組織は、自らの置かれている環境を客観的かつ正確に把握し、その変化に適用できるように常に自己変革を怠らないという。
 
   そして、“超一流”と呼ばれる人には、いくつかの特徴があるという。
 
 ① 人格者である(企業や他人の利益を考えて行動する)
 ② 意思を伝えるのがうまい(他人の力を必要だと熟知している)
 ③ 現状を楽しめる(人や環境のせいにしない)
 ④ 規則正しい生活を送っている(食事、睡眠、運動のバランスがいい)
 ⑤ 後進を育てている(熱意と信念をもって指導・育成し、人望が厚い)
 
   また、超一流として上記の特徴を身につけるために、次のようなことを心掛けているという。
 
 ① 継続して努力をする
 ② スピードを意識する
 ③ 謙虚さや柔軟性を持ち続ける
 ④ ユーモアを持つ
 ⑤ 向上心を持ち続ける
 
   常に先を見据えて努力できる人であり、決めるのは他人の評価であることをよく自覚しているのだろう。
 
   今、日本の市場は成熟期から衰退期にある、とよく言われている。しかし、どんな環境にあろうと、自らの立つ位置を決めるのは、当然のことながら自分自身の意思である。
 
   だとすれば、超一流という人はどんな人か、またそうなるためにはどうしたらいいのか、熟慮するのも一考だと考える。
 

今週の考える言葉「ビジョナリーワード」

考える言葉

ビジョナリーワード

   書棚を整理していると、『未来は言葉でつくられる~突破する1行の戦略』(細田高広 著)が目についたので再読している。もう10年程前に出版された本であるが、当時何度も読み直した形跡が残っている。
 
   そこに、「未来を発明する“ビジョナリーワード”」という言葉があるので、少し紹介したい。
 
   ビジョナリー(visionary)とは、「先見の明がある人」とか「洞察力のある人と解している。また、英語の「VISION」には、「視覚」や「風景」の他に「想像力」といった意味が含まれているとある。
 
   しかし、本書では、ビジネスでいうビジョンとは「見えるもの」ではなく、「見たいもの」。「未来予測」ではなく、「未来意思」。「未来を予測するのではなく、つくりだす人」(アラン・ケイ)こそが、ビジョナリーだと述べている。
 
   そして、「時代」を発明した言葉として、30項目を掲げてあるがそのいくつかを紹介したい。
 
① 「10年以内に、人類を月に送り込む」(ジョン・F・ケネディ)
② 「貧困は、博物館へ」(ムハマド・ユヌス、グラミン銀行創設者)
③ 「女のからだを自由にする」(ココ・シャネル)
④ 全てのデスクと、家庭にコンピューターを(ビル・ゲイツ)
⑤ 自由闊達にして愉快なる理想工場(井深大)
⑥ 地上でいちばん幸せな場所(ウォルト・ディズニー)
⑦ 無印良品(西友の良品計画)
⑧ 1000曲をポケットに(「iPod」アップル)
⑨ すべての書籍を60秒以内に手に入れるようにする(「キンドル」アマゾン)
⑩ 僕たちはエンジニアじゃなくてアーティストなのだ(スティーブ・ジョブズ)
 
   確かに、こうした言葉をよく吟味すると、単なる「未来予測」ではなく、未来を変えたいという「未来意思」を強く感じることができる。
 
   “ビジョナリーワード”をつくるには、次の4つのステップが必要だという。
 
① 現状を疑う
② 未来を探る
③ 言葉をつくる
④ 計画を立てる
 
   「会計人は社会のインフラ!」「倒産は、博物館へ」・・・。小生が大事にしている“ビジョナリーワード”である。『将軍の日』で、ぜひ“考える一日”を!
 

今週の考える言葉「働くこと」

考える言葉

働くこと

   先週の「”考える言葉”シリーズ(24‐33)働き」で、「動き」と「働き」の違いについて考えてみた。
 
   今回は、「人はなぜ、働くのだろう?」という観点から、“働くこと”の意義について考えてみたい。
 
   前回も触れた通り、「働くの語源は、傍(はた)を楽(らく)にすること」であり、他人に貢献することによって、自らの成長機会を得ることになるのだ、と。
 
   経営学者である伊丹敬之(ひろゆき)教授は、氏の著書『経営を見る眼』の中で、次の二つのために「人は働く」と述べている。
 
「所得」=「稼ぎ」(経済生活)
「すること」=「勤め」(存在意義)
 
   そして、なぜ人は「会社」で働くかというと、一つは、人間は一人ではできることには限界があるということ、二つに、集団に加わりたい、つまり人は群れたがる動物だからだという。
 
   先週(20~21日)は、二日間、福岡で後継者育成塾(第8期⑤)を開催したが、その時のテーマは『仕事の価値化~仕事の報酬は仕事である』。二日間みっちり、「何のために仕事をするのか」、そして個人ではなく組織人として、なぜ“働くこと”をしているのか等々について、皆で討議し、考えてみた。
 
   普段何気に行っている日常的な業務……。「なぜ、何のために」と目的を問い直してみると、様々な気づきが出てくるものだ。
 
   近代組織論の祖の一人であるチェスター・バーナード(1886~1961)は、企業という組織を協働行為の体系と捉え、その組織の成立条件として、次の3要素を示している。存続の前提としている。
 
① 共通目的(組織目的)
② 協働意思(貢献意欲)
③ コミュニケーション
 
   ここで、“働くこと”とは、協働行為の体系の一部分として、全体と部分との関係性を十分に理解した上で、自らの役割を十分に認識し、求められる成果につながるような動き、働きをすることが重要である。
 
   「仕事の本質は、社会貢献である」とするならば、「自らの働きが世のため人のためになっているのか」という問いを自問自答し、日々反省の時間を持つことが大切だと考える。
 
   「人はパンのみにて生くるにあらず」 “働くこと”の意義を改めて熟慮したい。
 

今週の感がる言葉「働き」

考える言葉

働き

   人を評価するときの間違いの一つは、「動き」と「“働き”」を混同するところにある。
 
   夜遅くまでの残業とか、休日出勤を「よく働いている」と評価するのは早計である。それがどんな成果につながっているのか抜きに評価できないという。
 
   忙しく動き回っていれば働いている気になってしまう。しかし、これは悪しき習慣である。
 
   成果をあげるには、古いものや報われないものを計画的に廃棄する必要があるとドラッカーは繰り返し主張している。
 
   さらに、“働き”において成果を出すために重要なことは、自らの強みを認識できているかどうかである。なぜならば、何事かを成し遂げるのは強みだからである。
 
   では、強みを正しく知るためにはどうしたらいいのか。ドラッカーが推奨するのは、フィードバック分析である。
 
   例えば何かをすると決めた時、先ず期待する成果を書き留めておく。そして定期的に期待と結果を比較する。すると、次のような事が明確になってくる。
 
① 自分は何がうまくできるのか
② 自分の強みは何か
③ 自分にはどんな能力が欠けているのか
④ 自分は何を学ばなければならないか
 
   こうして自分の強みを知ったら、それをさらに強化し、“働き”(仕事)に活かすように心がけることだ。
 
   そして、組織としての“働き”という観点から考えると、協働行為の体系としての機能が求められる。つまり、組織を構成するメンバー一人ひとりがお互いの強みを生かし合うという風土を創ろうとする心がけである。
 
   “働き”を通して、自らのキャリアを高めたいと願っている。それには、ドラッカーによると、次の3つを知ることが大事だという。
 
① 自らの強み(強みを知り、伸ばすこと)
② 自分の仕事のスタイル(仕事の得意不得意を知 る)
③ 自分の価値観(モノの考え方)
 
   そして、自らの価値観を“働き”に活かそうとするならば、組織の価値観との間にズレがあっては自らの強みを発揮することはできない。
 
   元来、働くの語源は、傍(はた)を楽(らく)にすることだという。“働き”、他人に貢献することによって、自らの成長機会を得ることになる。
 
   自己の強みを活かし、世のため人のために尽くすことに専念したいと思う。
 

今週の考える言葉「起業家精神」

考える言葉

起業家精神

   バブル崩壊後(1990年代初頭)、日本経済は「失われた10年~30年」と言われ、そしてアフターコロナ後の今がある。
 
   その間、よく耳にするようになった言葉に一つに、“起業家精神(アントプレナー・シップ)”という言葉がある。また同時に、“起業家精神”を持った若い経営者に出逢う機会が増えたような気がする。
 
   アントレプレナーシップ(entrepreneurship)、その語源はフランス語の「entrepreneur」から来ており、日本語では「起業家(企業家)精神」と訳されている。
 
   シュンペーター(経済学者)は、“起業家精神”について「新しい事業を創造しリスクに挑戦する姿勢であり、イノベーションを遂行する当事者である」と述べている。
 
   また、ドラッカー(経営・社会学者)は「“起業家精神”を個人の資質だけでなく、組織の文化やリーダーシップの哲学」としても捉えている。
 
   そして、「組織やリーダーが変化に適応し、成長するための貴重な指針となり、変化こそが新たな機会を生み出す土壌である。つまり、変化の時代においてビジネスの成功に不可欠な要素を提供する」としている。
 
   かなり分厚い本だが、『ベンチャー創造の理論と戦略』(ジェフリー・A・ティモンズ著、千本倖生+金井信次訳)という本の中で、「“起業家精神”の6大テーマ・起業家に必要なメンタリティと行動」として、次の6項目が紹介してある。
 
① 全面的な献身と強固な決意(決してあきらめない)
② リーダーシップ(ビジョンと夢)
③ 起業機会への執念(識別し、没頭する)
④ リスク、曖昧性、不確実性に対する許容度(パラドックスへの対処)
⑤ 創造性、自己依存、適応力(失敗を恐れず、行動主義に徹する)
⑥ 一流足らんとする欲求(チャレンジ目標への意欲)
 
   この6大テーマの関しては、まったくの同感である。小生も、未来会計の事業化について講演したとき、「事業化、成功の秘訣は何ですか?」と問われたとき、次のように応えることが多い。
 
   「一言でいうと、成果が出るまで、決して諦めずにやり続けること」…。
 
   そのためには、上記の「6大テーマ」は必要不可欠な要件だと、改めて認識した次第である。
 
   今日の成熟化した時代環境、ビジネスのグローバル化、消費者ニーズの多様化など激変する経済環境において、その環境に適応し、さらに存続・発展していくには、“起業家精神”は組織にも個人にも必要不可欠な要件だといえよう。
 

今週の考える言葉「プラス思考」

考える言葉

プラス思考

   弱み・アンバランス・脅威はチャンスである」という考え方がある。
 
   つまり、「マイナス要因はビジネスチャンスである」という“プラス思考”の発想だ。チャンスを発見する視点として、「マイナスをプラスに変える」という考え方が大いにあり得ることである。
 
   そもそも、企業は「顧客の問題解決」を支援する存在であると考えるならば、「マイナスをプラスに変える」という“プラス思考”の発想は、企業の存続・発展には欠かせないことである。
 
   まず、脅威だが、これは社外に存在する。つまり、組織を取り巻く環境であり、その変化として捉えることができる。時に、“プラス思考”あるいはポジティブ思考という言葉が口にされるのは、変化の激しい時代環境のせいもあるだろう。
 
   その変化をプラスに変える思考は、どうすれば身につくのだろうか?そのトレーニングの方法として、よく次のような事が言われている。
 
 ① 小さい目標達成を繰り返し、勝ち癖をつける
 ② 普段から笑うように心がける
 ③ 何事にもまずはチャレンジしてみる(やりたい気持ちを大切に)
 ④ 完璧主義に固執しない
 ⑤ 筋力トレーニングなどに励み、自己肯定感を高める
 ⑥ 前向きになれるよう、ルーチンワークやゲン担ぎを取り入れる
 ⑦ 「ありがとう!」などポジティブな口癖を習慣化する
 ⑧ 前向きになれる言葉や名言を読む
 
   小生は、朝起きたとき、「今日も一日、前向きに生きるぞ!」と“プラス思考”が働くように、P・F・ドラッカーの本などを机に数冊置いていて、手に取るようにしている。そして、今日一日大事にしたい言葉を一つ選ぶように心掛けている。
 
   さらに、その選んだ言葉は、スマホのIG経営理念を記載している個所に、大事にしたい価値観として、付け加えるようにしている。そして、折に触れて、目を通すようにして、考える言葉の題材として活用もしている。
 
   “プラス思考”にとって、もっと本質的な事としては、「目的思考」を持って生きるということではないだろうか。「何のために生きるのか」という問題意識こそ、“プラス思考”の根本をなす姿勢であろうと考える。
 
   つまり、“プラス思考”の本質は、目的を明確にしてその実現のために努力をし続ける姿勢を貫くことで培われてくる思考、つまり生き様ではないだろうか。
 
   変革の時こそ、前向きに生きる、“プラス思考”が必要なのではないだろうか。
 

今週の考える言葉「細口巨耳」

考える言葉

細口巨耳

   もう30年程前に出版された書物であるが、『リーダーの生き方』(飯塚昭男 著)という本がある。90年代で、バブル経済が崩壊し、トップのリーダーシップが強く問われる時代の始まりだった。
 
   先行き不透明な難しい時代の中で舵取りをしなければならない経営者にとって、情報収集力は必要不可欠な要因だったといえよう。
 
   情報の基本動作は不変で、それは「深く読み、深く聞き、深く叩く」ということだ。
 
   この三つの基本動作の中でも組織リーダーには「聞くということ」が重大な要素になるという。組織を動かし、人心をつかみ、時代の変化に対応するには「体全体を耳にする」必要がある。
 
   「良きリーダーシップは、まず聞くことから始まる」と言う。
 
   “細口巨耳(さいこうきょじ)”とは、「余計な口を挟まず、相手から話を聞き出せ」ということである。
 
   古くから中国に伝わる言葉で「巨口細耳」という言葉がある。人の言うこと聞かぬ王侯の頑なな態度を嗤ったものである。つまり、口ばかり大きく、わめき立てるが、耳はことのほか小さく、他人の意見に全然耳をかさない状態を指したものだ。
 
   それを上手く、使い変えて、「経営者は“細口巨耳”であらねばならぬ」といった経営者がいたという。
 
   経営の神様と言われた松下幸之助氏の成功の秘訣の一つとして、「幸之助さんは人の話を聞く名人だった」とよく言われる。しかも、素直な心でしっかりと聞き、一方で深く考え、そして考えながら聞いたという。まさに、“細口巨耳”…。聞き上手だったのである。
 
   聞き上手のポイントとして、次の4点が考えられる。
 
 ① とにかく黙って聞くこと
 ② 本音で聞くこと
 ③ 問題意識を持って聞くこと(自分の座標軸の問題)
 ④ そして最後は、「深く考える」こと
 
   バブル崩壊後、失われた10年が、いつの間にか失われた30年と言われるようになった。時代環境はさらに多様化し、混沌とした時代が深まっている。
 
   経営はさらに、リーダーシップが問われる環境にある。そのためにも、リーダーは傾聴力を高め、先見力を磨き、信念を持って意思決定をすることが求められるいる。
 
   全身を耳にして情報を集めるためにも、“細口巨耳”でありたいとも思う。
 

今週の考える言葉「ドメイン」

考える言葉

ドメイン

   “ドメイン(domain)”とは、組織体の活動の領域・フィールドことで、事業“ドメイン”ともいう。
 
   小生が独立開業したのが1984年で、40年ほど前になるが、その頃の日本経済は戦後の高度成長期を終え、市場が成熟化し、安定成長・低成長期にあったと言われていた。
 
   そんな経済環境であったからだろう、「企業は新たな成長戦略を描くには、“ドメイン”の見直し、再構築が必要だ」ということをよく見聞きしたものだ。
 
   企業は“ドメイン”の設定により、戦う領域を設定し、組織活動の指針とする。ゆえに、
 
   “ドメイン”は、企業の方向性を示す上で、非常に重要な意味を持つ。そして、“ドメイン”設定のミスが、企業の凋落の原因となった事例として、アメリカ鉄道会社のことがよく挙げられていたものだ。
 
   アメリカ鉄道会社の凋落の原因は何か。それは、市場が衰退したからではなかったと…。人の移動の面でも物の移送の面でも、事実、輸送に対する社会のニーズは急成長を続けるなかで鉄道の凋落が起こったのである。自動車やトラックなどの代替輸送手段に需要を奪われたというよりも、伸び続けていた需要に鉄道会社自身が上手く対応できなかったために起こったのである。
 
   この例は、鉄道会社が自らの事業を「輸送事業」と考えるのではなく「鉄道事業」と考えたために自分の顧客を他に追いやってしまったというのだ。
 
   アメリカの鉄道業界が衰退したのは自分たちの事業を“鉄道”というサービスでだけしか考えていなかったのが、その理由であった。つまり、輸送を目的と考えずに鉄道を目的としてしまったからだ。
 
   鉄道という物理的定義の“ドメイン”ではなく、輸送という機能的定義の“ドメイン”を思考すべきだったのだ。
 
   自分の商品やサービスを中心にして事業を考えていると、技術革新など環境に変化が起こったとき、他の業界に顧客をすべて持っていかれる恐れがあるのだ。
 
   成功と継続を両立させるためには、➀ 顧客は誰か、② 顧客の抱える問題は何か、③ どうやって顧客の問題を解決するか、常に顧客の視点から“ドメイン”を見直すことを怠ってはならないと思う。
 
   1990年代初頭にバブルが崩壊して30年が過ぎる。「失われた10年」がいつの間にか「失われた30年」と言われるようになった。各人が、自らの手で、新たな成長戦略を描くためにも、自社の“ドメイン”を再構築してみたいと思う。
 

今週の考える言葉「迷い」

考える言葉

迷い

   誰もが自らの人生において、「何かに迷う」ということを幾度となく経験しているのではないだろうか。現に今、“迷い”の最中にいる人もいるだろう…。
 
   しかし、「何かに迷う」ということは、不快なことではあるが、人間として生きている証拠だとも言える。人間はもともと迷う生き物なのだ。それは人間が複雑な社会を生きているからに他ならない。ある意味、進化している証拠だともいえよう。
 
   中西輝政(政治学者、歴史学者、京大名誉教授)は、その著書の中で「“迷い”は将来への投資である」と延べて、「人間は、つねに相反する二つのものを持ち、自分に問いかけていくべき存在だ。その中で悩み、惑い、試行錯誤することこそ、考えを広げ、深める訓練の場となる」と。
 
   「社長は誰も孤独で“迷い”続けている」という言葉をよく耳にするが、確かに日々難題に向き合い、孤独な意思決定をせざるを得ない経営者にとっては、“迷い”(悩み)は一種の職業病だともいえるだろう。
 
① 業績の低迷、伸び悩み
② コスト削減の悩み
③ それに伴う資金繰り悪化
④ 優秀な人材確保ができない
⑤ 人材が定着しない
⑥ 取引先との関係性に悪化
⑦ 将来への見通しが不透明 等々…。
 
   経営者というは、ホントに“迷い”(悩み)の尽きない役職である。
 
   松下幸之助も、松下政経塾で“迷い”について次のように語っていたという。
 
   「今はまだ、“迷い”に迷って、骨と皮になるというくらいに迷ってもいいわけや。迷えば迷うほど偉大なものが生まれる。苦労のしがいがあるものや。そやけど迷わんでもいいことで迷ったらあかん。それと、自分の感情にとらわれたらあかん。素直な心がなかったらそうなってしまう」と…。
 
   現状に甘んじることなく、新たなことにチャレンジしようという気持ちで日々仕事に取り組んでいると、“迷い”はあって然るべきだろう。そんなとき、「“迷い”は将来への投資である」という言葉を思い出し、焦らず、じっくりと迷いと向き合う姿勢であるべきだろう。
 
   「満足した豚よりも不満足なソクラテス」でありたいと思う。
 

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